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食べちゃいたいほど大好きなのだから



「あら、お元気だったのかしら?」

「ああ、どうも……僕はそれなりにですよ。……陽子さん」

「そう、それは良かったわ。あなたを他の誰かに盗られたくありませんもの」

「僕はあなたの物ではないのですがね……」

「じゃあ私の物になってしまえばいいわ」

「ご冗談を。僕なぞつまらない者に目をかけるものではありませんよ」

「そんなことないわ。私はあなたのことが好きなのだもの」


運命のいたずらと言うべきか、はたまた星の巡り会わせとも言うべきか、
僕はこの女性と関わってしまったということに今更ながら何者かの意図を感じてしまうことがある。
もちろんそんなものは僕の勘違いなのではあろうが、
この出会いを多少なりとも呪わしく思ってしまうのも致し方のないことではないのかと言い訳をしたいのである。

あれは数年前のことだった。


――――――――――――――――――――


油断した。
まさか僕が轢き逃げされるとは……。
人間に化けてたし轢いていったやつも慌てて逃げてたな……。
ははっ、今頃人を殺したんだとびびってるのかな。

ああ、だめだ。変化も解けてしまった。
幸い足が折れてる程度だけど痛みで動けそうにもないな……。
どうしたもんだか。
このままここにいたのでは次来る車にまた轢かれてしまうかもしれないな。
そうなれば流石に助かることは……。

クソ、こんなんだったら白面ちゃんに告白しとくんだった……な。


「あらあら、可哀そうに。うちに連れて帰って手当してあげるわ」


突然聞こえる、謎の女性の声。
しかし、その声の元を確認する前に僕は意識を手放した。





気づくと僕はどこかの診療所らしきところにいた。
怪我をした足は既に手当されていた。
ここはどこだろうと辺りを見回していたら後ろから声をかけられた。
それは先ほど意識を失う直前に聞いたあの声だった。


「あら、気づいたのね」


彼女はそう呟くと普段使っているだろう自分のデスクに腰を掛けた。

ああ、たぶん彼女が助けてくれたのだろう。
感謝をしたいところだが、流石に喋ったら化け狐だと怖がられてしまうだろうし、
このまま親切に甘えるとしよう。


「あら?命の恩人に感謝の言葉もなしかしら?」


彼女は何を言っているんだ?
ただの狐がどうして人の言葉がわかると思っているのだろう。
しかし、確かにこのまま何も喋らず、というわけにもいくまいか……。


「コン」

「あらあらまあまあ、可愛らしい。なんて可愛らしいのでしょう。
 でもね、私が期待しているのはそんなことじゃないの」


これ以上僕にどうしろというのだ。


「人間の姿にもなれるのだからきっとお話できるはずでしょう?」


その瞬間、ぞくっと背筋が震えた。
こちらにむかってニコリと微笑む彼女にとても寒いものを感じたのだ。

覚悟を決めるしかなさそうだ。


「……どうしてそのことを?」

「あら、やっぱり話せるのね。どうしてってそりゃもちろんあなたが轢かれるところを見ていたからよ」


とんだ失態だ。
事故に遭うどころか変化が解ける瞬間まで見られていたとは。


「どうして僕を助けたのです?」

「私は獣医だからよ。ここは私の病院なの」

「でも見捨てることだって出来たはずでしょう?」

「そうね。でもこんなに面白そうなものをみすみす見逃す手はないわ」

「……そうですか」

「私、烏島陽子というの」

「はあ……」

「女性に先に名乗らせておいてあなたは名乗らないのかしら?」

「そちらが勝手に名乗ったのではありませんか……。山城総次郎です」

「やっぱり化け狐にも名前はあるのね」

「化け狐って……これでも僕はれっきとした妖狐で……」

「あらそうなの。あなたも『ようこ』。私も『ようこ』。面白い偶然ね。うふふ」


厄介だ。
本当に厄介な人に捕まってしまった。
本当ならば今すぐ逃げ出したいところだが、この足では無理だろう……。


「私ね。小さいころからずっと動物と話してみたいと思ってたの。
 でも大きくなるにつれ話すのは無理ってわかったから、
 せめて動物たちの気持ちがわかるようになりたいと思って獣医を目指したの」

「そうですか……」

「でもやっぱりわからないことだらけ。
 結局理想は理想でしかないと思っていたらあなたに出会えたのよ」

「…………」

「人語を解する動物が実際にいるとは思わなかったわ」

「……妖怪ですけどね」

「そうね。でも、いいわ。だってこんなに嬉しいんだもの!」


一瞬見せた子供のような眩しい笑顔に少しドキりとしてしまった。
それはずっと心の奥に押しこめていた『純真さ』とでもいえばいいのだろうか、
そういうものを彼女に垣間見ることができたからだろうと今では思う。

結局僕の足が治るまで色々なことを質問された。
とても、とても多くのことを彼女は尋ねてきたのだ。
……答えられないことのほうが多かったのではあるが。

この時、多少なりとも彼女に心を開いてしまったことを今でも僕は後悔している。


――――――――――――――――――――


それ以来、たまに彼女と街で出くわすたびにちょっかいをかけられるようになってしまった。
買い物に付き合えだの、しつこい男がいるからそれを振る手助けをしろだの、
いつもいつも『正体をばらされてもいいのかしら?』との脅し付きで付き合わされたのだ。





「あなたはいつまで経っても私の物になってくれないのね」

「僕には心に決めた人がいますから」

「あら、妬けちゃう。じゃあいっそのこと狐鍋にでもして私の血肉にしてあげるわ」

「それはご勘弁を。これでも一応神使の系譜なもんでして」

「あらそう、残念ね。これでも私はあなたのことを好いているのよ?」

「飽きませんね。その冗談」

「あら、冗談じゃないわよ?私はあなたのことが食べちゃいたいほど大好きなのだから」


ヒヤリと冷たい彼女の笑顔。
何度見ても見慣れない。
そのうち本当に僕が食べられてしまうんじゃないかと思ってしまう。


「あまり人を、いや『妖狐』をからかうもんじゃありませんよ。陽子さん」

「ふふ、そうね。……そうよね」




そう、僕らはあくまで違う世界を生きるもの。
だからこそ、この出会いを呪わしく思うのだろうと僕は思う。

この気持ちはきっと恋などではないのだから。

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