Pollyanna

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この記事は常にTOPにあります。

基本的に作品の目次代わりに利用予定。
書きあがり次第利用していきます。



現行スレはこちら
今日も今日とて狐狸夢中
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今日も今日とて狐狸夢中 目次


プロローグ

第一話 素直じゃない君

第二話 阿呆同士の騒ぎ合い

第三話 五十年のお付き合い

第四話 亀が語りき思い出話は国宝級?

第五話 うっかり狐は計算高し

第六話 大きな名前と小さな僕

第七話 素直な天邪鬼

第八話 真面目と阿呆

第九話 流行ものには敏感なのです

第十話 食べちゃいたいほど大好きなのだから

TSラブコメ



体が裂けてしまうような痛みがこの身を焦がす。
実際に裂けてしまえばいいのになんて思う私は狂ってるのだろうか。

私はずっと二人だった。
私の半身とずっと一緒だった。
同じ日に生まれ、同じように育ち、同じ様に愛された。
私自身も彼を愛し、彼も私を愛していた。
私はそれが当たり前だと思っていた。

困ったのは中学生の時。
私が住んでいるところはとても田舎だ。
だからこそ小学生の頃は私服で登校していた。
数少ない周りの友達とも普通に関われていた。
しかし、中学生に上がる際に問題になったのだ。
俺は表面上は何も気にせず男子の制服を手に取った。

自分の中にもう一人の自分がいることには気づいていた。
いやもう一人というよりは彼女も俺の一部だ。
もしかしたら俺のほうが偽りなのかもしれない。
気づいていた。自分が異常だと。
学ランを着るたびに苦痛を覚える自分がいる。
シャツを中に着ないと違和感を覚える自分がいる。
『私』がいる。

本来あってほしいものが育つことはなくて、
本来あってほしくないものがそこにはあって。
でもそのおかげで彼のそばに居られて。

常識と本能。その狭間でいつも私は揺らいでいた。
揺らいでいるということは私の染色体が欠けている証。
そこが埋まるはずもない。


「よう、さくら。おはよう」
「うん、おはよう。ゆう」


俺の名前は雨夜朔(あまやさく)。
でもゆうだけは「さくら」と呼んでくれる。
ゆうくんは別に私の体質を知っているわけではない。
でもひょんなことがあってそれからずっと「さくら」と呼んでいる。
ゆうくんは、岸下優希(きしげゆき)は私のかけがえのない友人だ。
そう、友人だ。
彼は「ゆき」という名前の響きが女の子っぽいと嫌がり、友人には「ゆう」と呼んでくれと頼んでいる。
私は好きだけどな「ゆき」。


中学三年間もあれば俺はきっとこの姿にも慣れるだろうと思っていた。
しかし、そんなこともなく、結局俺は違和感を抱えたまま中学を卒業することとなった。


「しっかし高校まで同じとはな。もしかして俺についてきたかったのか?なーんてな」


卒業式を終えた帰り道。
ゆうくんが突然そんなことを言う。
正直なところ図星なわけで内心冷や汗ものではあったのだが、それを悟られないようにと必死で取り繕う。


「あはは、そんなわけないじゃん!たまたま学力が同じ程度だったんだよ」
「ま、そうだよな」


心がチクリと痛む。
嘘をついている罪悪感からか、
それとも彼が僕に全幅の信頼をよせてくれているのを裏切っていると思っているからか。

今の私にはわからなかった。

高校の入学式を数日後に控えたある日の朝、私は自分の身体に違和感を覚えた。
何がどうとは言いづらいのだが、普段と少し感覚が違う。
身体が重いような……?いや、軽いような?
うーんうーんと唸ってはみるがいまいちピンとこない。
とりあえず考えていても仕方ないだろうと開き直り、朝風呂に行くことにした。

いつも通り服を脱ごうとして気づく、胸あたりに何か膨らみがあることに。


「えっ?」


慌てて鏡を見ると私の胸が大きくなっていた。
少しぐらいならもしかしたらあり得るのかもしれない。
しかし、これは明らかに大きい。推定Eはあるだろうか。


「え、え、え……」


そこではたを気が付く。
下のほうはどうなっているんだろう。
無我夢中でズボンとパンツを降ろし確認する。


ない。
そこにあるべきものがどこにもない。
私が俺であったはずの証拠がどこにも。

私は女の子になってしまっていた。


「俺……俺はどうして……」


誰もその問いに答えることはない。
しかし現実問題として男だったはずなのが女になっているのだ。
今まで俺は男として生きてきた。そう納得させてきたというのに。

なんで私は女性の体になってしまったのだろうか。

結局お風呂にも入ることはなく、脱衣所で半裸のまま混乱していると、
家の中に呼び鈴が鳴り響いた。

ピンポーンという機械音が私を現実に呼び戻す。
そういえば今日はゆうくんと遊ぶ予定があるんだった。
一緒にもう一度高校の下見に行こうって約束してたんだっけ。

でも今の俺はこんな身体になってしまっている。
これではゆうの前に顔を出すことなんてできない。
どうしようかと悩んだ結果、包帯をさらし代わりに胸に強く巻いてなんとか隠すことにした。
流石にTシャツではバレルと思ったので適当に上着を着てごまかす。
ウェストのほうも以前より細くなっていて、普段よりも強くベルトをしめた。


「よう」
「ごめんね、ゆう。ちょっと準備に手間取ってたんだ」
「いやなに、俺も少し早く来すぎたみたいだしお相子だ」
「そう?それならいいけど」
「じゃあ行こうぜ」


そう言いながら自然に私に手を差し伸べるゆうくん。
ああ、この何気ない優しさが私の心を掴むのだ。
そうだ、私が彼のことを好きになってしまったのは彼のせいでもあるんだ。
だから私は悪くない。うんうん。
そんなしょうもないことを思い込むことにして私は精神の安定を取り戻す。


「自転車でどれくらいだっけ?」
「えーっとここからなら15分ぐらいだな」
「結構近くていいねえ」
「お前それ受験の時も言ってたな」
「そうだっけ?」
「そうだよ」


他愛のない会話をゆうと繰り広げる。
ああ、こんな些細な会話でもやっぱり楽しいな。
ゆうと一緒にいるだけですごく楽しい。
これは俺も、私も、一緒だな、一緒だね。


「どうした?」
「ううん、なんでもないよゆうくん」
「……そうか」


一通り高校の校舎を見て回って満足した私たちはそこで別れ、また後日遊ぶ約束をした。


「じゃあ明後日ぐらいでいいか?」
「うん、それでいいよ。何時ごろに集まる?」
「また俺がお前の家に行くよ。まあのんびり向かおうと思うからあまり急がなくていいぞ」
「わかった。そうしよう。じゃあゆう、また明後日ね」
「ああ、また明後日な」


ああ、楽しかったなぁ。また明後日かあ、明後日は何して遊ぼうかなぁ。
そんなことを考えながらルンルン気分で家路を急ぐ。
そうして帰宅したわけだが、自室に入ってから思い出す。
女の身体になってしまった自分のことを。


「あ……これどうしよう……」


あれこれと悩んだところで当たり前だが解決策が思い浮かぶはずもなく、
とりあえずはお風呂に入ることにした。
入る前は男の身体から女の身体になってしまったことで少々照れくさくもあったが、
自分の身体だからか入ってしまえば特に気になる点もなく、
むしろしっくりきているぐらいだった。


「やっぱり私って女の子なのかなぁ……」


そんなことを一人呟いた。

――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――

Prr……Prr……

「はい、もしもし雨夜です」
「あ、さくらのお母さんですか?俺です。ゆきです」
「あら、ゆきくん。どうしたの?」
「はい、実は……」


―――――――――――――――――
――――――――――――――――――――


翌日。
私が朝起きると、今日は休みのはずの両親が二人ともいなくなっていた。


「何か突然仕事でもはいったのかな?」


そのことに関しては特に気にすることもなく過ごしていたのだが、
やはり無視できない問題が持ち上がってくる。
もちろん俺の身体のことだ。
このままごまかし続けているわけにもいかないし……。

とりあえずは今は家に誰もいないのだからとさらし代わりの包帯を取る。


「ふぅ~ちょっと落ち着いた。意外と苦しいんだよねこれ」


しかし、さらしを取ったのはいいものの布と、あの部分が擦れてちょっと気持ち悪い。


「はぁ……やっぱりブラ買いに行かなきゃダメなのかな……でも私が入ったら不審がられないかな……
 いや、今こんなものがついてるんだし大丈夫か」


そんなことを言いながら自分の胸をいじる。
ちょっと重い。多くの女性に失礼かもしれないが正直こんなの邪魔だ。
でも……。


「ゆうくんは大きいほうが喜んでくれるかなぁ……なんて」


一人呟いて、きゃーと両手で顔面を覆う。
なんてことを私は言ってるんだろう。
ゆうくんは友達であって恋人でもなんでもないのに。













「そうだな。俺としても大きいほうがいいな」


え?

恐る恐る振り返るとそこには、
ニヤニヤしながらこちらを覗いているお父さんとお母さん。
そして顔を赤くして恥ずかしそうに頬を書きながらそっぽを向いているゆうくんだ。


「え、え、え、ええええええええええええええ!?」


私の絶叫が家中にこだました。

――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――――――


その後のゆうくんによる説明によるとこういうことだった。
どうやら私の家系、というよりお母さんのほうが特異体質らしかった。
なんでも天使の血が混ざっているとかで、元々は天使だった祖先の誰かさんが、
男の人に必死に口説かれた結果受肉し、女性として所謂『堕天』のようなことをしてしまったとかなんとか。
元々天使というものには性別はないらしく、状況に応じて使い分けていたのだが、
子孫にはそんな器用なことはできず、精神に引っ張られることによって男と女を確定させていたとかなんとか。

しかし、私は「ゆうくんと一緒に居たい」という思いが強すぎて、
一緒に居るには都合のいいということで男の身体になっていたらしいが、
本来であれば女性の身体で添い遂げることが本望というわけなので確定せずあやふやな状態だったらしい。

だけど、私も思春期を迎え、高校生になるにあたって私自身気づかないうちに「ゆうくんの恋人」になりたい、
という気持ちが強すぎたせいで女性化してしまったらしい。
そんな事情をその好きな相手であるゆうくんにされるというのはどんな羞恥プレイであろうか。

そんな説明を聞いた私は顔をクッションにうずめたまま上げることができないでいた。


「……ねえ、ゆうくん」
「な、なんだ?さくら」
「ゆうくんは私の体質について知ってたんだよね?」
「お、おう。一応な」
「どうして?」
「お前と仲良くなったころ、お前のお母さんからな。
 突然こんな事態になったら俺が驚いてお前と一緒に遊ばなくなるんじゃないかと心配していたそうだ」
「そういうことだったの……」
「ああ」
「じゃあゆうくんは……」
「ん?」
「ゆうくんはそのころから私の気持ちを知ってたってことだよね……?」
「うっ……」
「知ってたんだよね?」
「すまん……」
「~~~~~!ゆうくんのばか!!!!!お父さんとお母さんのばかー!!!!!!!!!!」


そう叫ぶと私は走って自室へと向かう。
あまりの恥ずかしさにベッドに飛び込んでそのまま悶えた。

わ、わ、私自身はっきりと自覚できてなかったのに!
みんなはそんなこと見透かしてて!
おとこのこだからゆうくんのことをそういう目で見るのやめようってずっとがまんしてきたのに!
それなのに!みんなは!ああああああああ、もう!

色々なことを一気に知らされて私の頭はずっと混乱しっぱなしだ。
でも流石に長いこと一人で悶えていたら少し落ち着いてくる。

ゆうくんは私の気持ちを知ってたんだよね?
でも、それでもずっと私と一緒に居てくれたんだよね?
とととととということはゆうくんも私のことを……?
いやいや、そんなまさか。
だって私は最近までずっとおとこのこだったんだよ?
そんな馬鹿なことがあるわけが……。
うん、ちょっと頭を冷やそう。お風呂に入ろう。

時計を見ると夜の9時を回っていた。
流石にお腹が空いたし、お風呂にも入りたい。
まずは冷静になるためにもお風呂に入るべきだ。

そう思い、自室から出るとそこにはゆうくんがいた。


「ゆ、ゆうくん」
「やっと出てきたか。そろそろ帰ろうかと思ってたんだぜ?」
「なんで……?」
「お前のことが心配だからに決まってんだろ?」
「ゆうくん……!」
「へっ、俺はお前のダチだからな」


ダチ、友達。その言葉に少し心がずきりと痛む。
そう、そうだよね。


「……でもなんでそれだけでずっと私と一緒に居てくれるの?」
「なんでってそりゃ……」


ゆうくんが突然言いづらそうに口ごもる。


「どうしたの?」
「あああああ、もう!言うよ!言えばいいんだろ!
 俺もお前のことが好きなんだよ!!!」

「え、ええええええええええええええ!」


本日三度目の私の絶叫だった。
どこかで両親も聞いていたのか、
「ねえ、あなた聞いた!?ゆきくんがついにうちの子に告白したわよ!」
「ああ、もちろん!録音もばっちりだ!早速岸下さんにも送ろう!」
「それがいいわね!ああ、どうしましょどうしましょ!お赤飯でも炊こうかしら!」
などと騒いでいる。

しかし、私はそちらに意識を向ける余裕はなかった。
彼は今なんと言った?聞き間違いでなければ私のことが好きだと言っていなかったか?


「で、でもなんで?私はずっとおとこのこだったんだよ?もしかしてゆうくんってそういう趣味?」
「ばっ!ちげえよ!俺はお前が好きなんであって男が好きなわけじゃねえ!」
「じゃあなんで?」
「~~~!……ちっ、仕方ねえ。お前は自覚がなかったかもしれないけどな、昔もちょいちょい女になってたんだよ」
「え?」
「俺も初めて見たときは驚いたよ。でもまあ一応お前のお袋さんからそのことは聞いてたからな。
 半信半疑だったが実際にこの目で見ちまったものは信じるしかないだろう」
「わ、私、そんなことしてたの……?」
「ああ、それにお前には自覚がねえかもしれんが、
 男モードの時は自分のことを『俺』と言ってるが女モードの時は『私』って言ってるからな」
「あっ……」


そういえばそうだ。一人で考えてるときは確かにそんな感じだった気がする。


「それにな」
「それに?」
「お前、俺への呼び方も違ってるんだよ。男の時は『ゆう』っていうが女の時は『ゆうくん』になってやがる。
 まあ、ここんとこは『ゆうくん』呼びのほうが多かったからそろそろだと思ってたけどな」
「そうだったの!?」
「ああ、でもまあ周りにはばれてねえから安心しろ」
「そ、そう……」


意外と私はゆうくんになんでも筒抜けだったらしい。
でも考え方を変えるとゆうくんはずっと私を見ていてくれたというわけで、
その事実を思うととてもうれしい気持ちになる。


「でも、今の話じゃなんで私のこと好きなのか説明になってないよ?」
「………………だよ」
「え?」
「初めて女になった時のお前が可愛かったんだよ!」
「ふぇええええええ?」


突然ゆうくんに可愛いなんて言われて私の顔が熱くなる。
たぶん今の私の顔は真っ赤だろう。


「そうだよ!有り体に言えば一目惚れだよ!」
「ゆ、ゆ、ゆうくうううううん!」
「なっ!」


感極まってゆうくんに抱き着く。
冷静になって考えればとても恥ずかしいことをしているのだろうけれど、
今の私にはそんなことは関係ない。


「わ、私はずっと私のこと守ってくれたゆうくんが好き!
 小さい頃引っ込み思案だった私に色々なことを教えてくれたゆうくんが好き!
 口では嫌とかいいつつもいつも私のために頑張ってくれてたゆうくんが好き!
 ずっとずっとゆうくんのことが大好きだったよぉ!」


何年もため込んでいた想いがダムが決壊したかのようにあふれだした。
ゆうくんは思いの丈をぶつける私をそっと黙って抱きしめてくれた。
そして一言、


「俺もずっと大好きだったよ。今までもこれからもだ」


そう言ってくれたのだった。






続く

食べちゃいたいほど大好きなのだから



「あら、お元気だったのかしら?」

「ああ、どうも……僕はそれなりにですよ。……陽子さん」

「そう、それは良かったわ。あなたを他の誰かに盗られたくありませんもの」

「僕はあなたの物ではないのですがね……」

「じゃあ私の物になってしまえばいいわ」

「ご冗談を。僕なぞつまらない者に目をかけるものではありませんよ」

「そんなことないわ。私はあなたのことが好きなのだもの」


運命のいたずらと言うべきか、はたまた星の巡り会わせとも言うべきか、
僕はこの女性と関わってしまったということに今更ながら何者かの意図を感じてしまうことがある。
もちろんそんなものは僕の勘違いなのではあろうが、
この出会いを多少なりとも呪わしく思ってしまうのも致し方のないことではないのかと言い訳をしたいのである。

あれは数年前のことだった。


――――――――――――――――――――


油断した。
まさか僕が轢き逃げされるとは……。
人間に化けてたし轢いていったやつも慌てて逃げてたな……。
ははっ、今頃人を殺したんだとびびってるのかな。

ああ、だめだ。変化も解けてしまった。
幸い足が折れてる程度だけど痛みで動けそうにもないな……。
どうしたもんだか。
このままここにいたのでは次来る車にまた轢かれてしまうかもしれないな。
そうなれば流石に助かることは……。

クソ、こんなんだったら白面ちゃんに告白しとくんだった……な。


「あらあら、可哀そうに。うちに連れて帰って手当してあげるわ」


突然聞こえる、謎の女性の声。
しかし、その声の元を確認する前に僕は意識を手放した。





気づくと僕はどこかの診療所らしきところにいた。
怪我をした足は既に手当されていた。
ここはどこだろうと辺りを見回していたら後ろから声をかけられた。
それは先ほど意識を失う直前に聞いたあの声だった。


「あら、気づいたのね」


彼女はそう呟くと普段使っているだろう自分のデスクに腰を掛けた。

ああ、たぶん彼女が助けてくれたのだろう。
感謝をしたいところだが、流石に喋ったら化け狐だと怖がられてしまうだろうし、
このまま親切に甘えるとしよう。


「あら?命の恩人に感謝の言葉もなしかしら?」


彼女は何を言っているんだ?
ただの狐がどうして人の言葉がわかると思っているのだろう。
しかし、確かにこのまま何も喋らず、というわけにもいくまいか……。


「コン」

「あらあらまあまあ、可愛らしい。なんて可愛らしいのでしょう。
 でもね、私が期待しているのはそんなことじゃないの」


これ以上僕にどうしろというのだ。


「人間の姿にもなれるのだからきっとお話できるはずでしょう?」


その瞬間、ぞくっと背筋が震えた。
こちらにむかってニコリと微笑む彼女にとても寒いものを感じたのだ。

覚悟を決めるしかなさそうだ。


「……どうしてそのことを?」

「あら、やっぱり話せるのね。どうしてってそりゃもちろんあなたが轢かれるところを見ていたからよ」


とんだ失態だ。
事故に遭うどころか変化が解ける瞬間まで見られていたとは。


「どうして僕を助けたのです?」

「私は獣医だからよ。ここは私の病院なの」

「でも見捨てることだって出来たはずでしょう?」

「そうね。でもこんなに面白そうなものをみすみす見逃す手はないわ」

「……そうですか」

「私、烏島陽子というの」

「はあ……」

「女性に先に名乗らせておいてあなたは名乗らないのかしら?」

「そちらが勝手に名乗ったのではありませんか……。山城総次郎です」

「やっぱり化け狐にも名前はあるのね」

「化け狐って……これでも僕はれっきとした妖狐で……」

「あらそうなの。あなたも『ようこ』。私も『ようこ』。面白い偶然ね。うふふ」


厄介だ。
本当に厄介な人に捕まってしまった。
本当ならば今すぐ逃げ出したいところだが、この足では無理だろう……。


「私ね。小さいころからずっと動物と話してみたいと思ってたの。
 でも大きくなるにつれ話すのは無理ってわかったから、
 せめて動物たちの気持ちがわかるようになりたいと思って獣医を目指したの」

「そうですか……」

「でもやっぱりわからないことだらけ。
 結局理想は理想でしかないと思っていたらあなたに出会えたのよ」

「…………」

「人語を解する動物が実際にいるとは思わなかったわ」

「……妖怪ですけどね」

「そうね。でも、いいわ。だってこんなに嬉しいんだもの!」


一瞬見せた子供のような眩しい笑顔に少しドキりとしてしまった。
それはずっと心の奥に押しこめていた『純真さ』とでもいえばいいのだろうか、
そういうものを彼女に垣間見ることができたからだろうと今では思う。

結局僕の足が治るまで色々なことを質問された。
とても、とても多くのことを彼女は尋ねてきたのだ。
……答えられないことのほうが多かったのではあるが。

この時、多少なりとも彼女に心を開いてしまったことを今でも僕は後悔している。


――――――――――――――――――――


それ以来、たまに彼女と街で出くわすたびにちょっかいをかけられるようになってしまった。
買い物に付き合えだの、しつこい男がいるからそれを振る手助けをしろだの、
いつもいつも『正体をばらされてもいいのかしら?』との脅し付きで付き合わされたのだ。





「あなたはいつまで経っても私の物になってくれないのね」

「僕には心に決めた人がいますから」

「あら、妬けちゃう。じゃあいっそのこと狐鍋にでもして私の血肉にしてあげるわ」

「それはご勘弁を。これでも一応神使の系譜なもんでして」

「あらそう、残念ね。これでも私はあなたのことを好いているのよ?」

「飽きませんね。その冗談」

「あら、冗談じゃないわよ?私はあなたのことが食べちゃいたいほど大好きなのだから」


ヒヤリと冷たい彼女の笑顔。
何度見ても見慣れない。
そのうち本当に僕が食べられてしまうんじゃないかと思ってしまう。


「あまり人を、いや『妖狐』をからかうもんじゃありませんよ。陽子さん」

「ふふ、そうね。……そうよね」




そう、僕らはあくまで違う世界を生きるもの。
だからこそ、この出会いを呪わしく思うのだろうと僕は思う。

この気持ちはきっと恋などではないのだから。

流行ものには敏感なのです




我ら妖狐族の多くは京都の地を安住の地として定めている。
京都という街では古くからのものが多く残っており、
服装もそれに合わせてか着物であったり甚平であるような人も他に比べれば多くいると言えるだろう。
だからこそ未だに変化する姿は甚平姿だったり着物姿だったりする者も少なくない。

とは言え、平成の世となった現在、
妖狐が皆、着物姿になろうものなら街には着物の人物が異様に増えるというものだ。

つまり何が言いたいかというと、妖狐もファッションには多少敏感なのである。


僕ら妖狐は服を買わない。
ならば服はどうしているのか。
人間に化けるときに色々変えているのだ。

とはいえ見たこともないものに化けるというのはとても難しい。
それが甚平や着物など想像しやすい服に化ける狐が多い一因でもある。
じゃあ普通の姿をしている狐はどうしているのかと言うと……

ウィンドウショッピングをしているのである。


「あー寒い寒い……」


冬も真っ盛りというこの時期、僕は白面ちゃんに街に行くからついて来いと連れ出されてしまった。
何もこんな時期に新しい服を見繕いに行かなくても……とぶちぶち愚痴ってたら、

『たまには人の役に立つことをしなさい!』

と怒られてしまった。
白面ちゃんは人じゃなくて狐じゃないか……、
とも思ったのだがこれ以上余計なことを言うと後が怖いので黙っておくことにしたのだ。


「お待たせ」

「お待たせってなあ……この寒空の中で長いこと待たされたら風邪をひいてしまうってもんだよ」

「なによう。いいじゃないか三十分ぐらい!女の子は色々準備が必要なんだよ!」

「女の子って……そもそも僕らは――、いやなんでもない」


寒さに耐えながらも待っていた僕に何のねぎらいもなく出てきた彼女に文句の一つでも言ってやろうと、
マフラーに埋めていた顔を上げ、振り向いたときに僕は言葉を紡ぐのを忘れてしまった。

恐らく自惚れでもなんでもなく、彼女が僕と一緒に出掛けるために考えたのであろう服装が、
とても似合っていて、見惚れてしまったのだ。

普段は恥ずかしがってあまり履くことのないスカートまで履いている。
黒のタイツを履いてはいるが寒いだろうに……。

でも眼福なのでとりあえず目に焼き付けておいたというのは言うまでもないことであろう。


「? 変なの。まあいいよ。さーて、今日はとことん付き合ってもらうよ!」

「はいはい……どこへなりともお供しますよ。お嬢様」

「それじゃあまずは――」


順番に白面ちゃんがお気に入りの店を回っていく。
僕はあくまで付き添いだ。でしゃばることはしない。
彼女が楽しそうに語る様々なことに耳を傾けているだけで十分なのだ。


「――それで、その時……ねえ、ちゃんと私の話を聞いてるの?」

「ああ、もちろん聞いているとも。それですっころんだ狸がどうしたって?」

「えっと、そのあと恥ずかしかったのか周りをキョロキョロ見回した時に追っ手に気付いたらしくて、
 慌てて狸の置物に化けてたんだよ。あはは。おかしいよね。
 突然街中に狸の置物が現れたら誰だって気づいちゃうよね」

「確かにそうだ。それでどうなったんだい?」

「案の定、見つかっちゃってその時は連れて行かれてたよ。
 なんでもそのあと親にこっぴどく叱られたとかなんとか」

「無理からぬ話だなあ。ところで服のほうはもういいのかい?」

「うん。気になる洋服はあらかた確認しちゃったかな。
 流石にいっぱい見ちゃってもそんなに覚えていられないしね」

「じゃあどうする?今日は寒いしもう帰るかい?」

「うーん……久々に一緒に街に来たんだしもう少し回っていこうよ」

「そうかい。それではお嬢様、よろしければお手をこちらに」


少しキザだったかな、と思いつつ腰を折りながら手を差し出してみると、
彼女のほうも照れながら僕の手を握ってくれた。
その手は暖かくて、今日は寒いはずなのに僕の心まで温かくなって、
そのあとはなんだか不思議に時が短く感じてしまった。








「――で、次の日にはこれですか」

「うう……ごめん」


次の日、僕は白面ちゃんの家に行っていた。
当の白面ちゃんは絶賛インフルエンザ発病中。


「昨日ので疲れちゃったのかね」

「そうかもしれない……」

「まったく、はしゃぐのもいいけど体調管理もしっかりしようね?」

「うん……わかってるよ……」

「それじゃあ僕、タオル取り替えてくるから」

「うん、ありがとう……」


昨日は一日中、上機嫌ではしゃぎっぱなしだったからまさかとは思ったけれど……。
幸い僕のほうにはなんともなかったから良いものの、
白面ちゃんを体調をしっかりと確認してなかったのも僕の悪い点ではあるのだろう。


「ファッションにも病気にも……流行りものには敏感ってことなのかねえ……」


そんなしょうもない愚痴をただ一人吐き捨てる僕なのだった。

プロフィール

ゆき

Author:ゆき
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